クリスマスプレゼントにこそ武道
50年前のクリスマスの朝、目を覚ますと枕元に大きなプレゼントが置かれていた。当時少年は10歳。クリスマスプレゼントにお願いしたものは次の3つのうちのどれか。
1つはローラースルーGOGOという三輪のキックボード、2つ目はゲイラカイトというイカの頭のような形をした急浮上する凧、3つ目はオセロゲーム。しかし、包みの形状からしてローラースルーGOGOとゲイラカイトでは無いと判り、オセロゲームだなと、、、と推測しワクワクしながら急いでプレゼントの包みを開けてみた。そしてその瞬間、私は固まった。中に入っていたのは華やかさも可愛らしさも何も無いゴワゴワした白い布だけだった。
「えっ?冗談?」と思いつつ白い布を広げてみると空手着と白帯だった。
その日は親に「ありがとう」とも言えずただただ凹んでいたことだけは覚えている。
少年は仕方なく父親と一緒に1月の深々と床が冷え渡る空手道場に入門した。真冬の道場は冷気が素肌を刺し「寒い」を超え「痛い」という感覚。始めた時期がそんな状況だったので、父親に「道場行くぞ!」と言われるたびに少年は「行きたくないな〜」と毎回心の中で呟いていた。しかし、そんな彼も空手の稽古を続けていくうちに空手が楽しくなり、気がつくと「忍耐力」「集中力」「自信」「人に対する優しさ」「思いやり」が自然に身についていた。
大人になった彼は「武道は一生の宝」ということを身を以て知ることとなった。
今では当時、空手着をプレゼントしてくれた父に感謝の気持ちでいっぱいである。あの時、ローラースルーGOGO、ゲイラカイト、オセロゲームをプレゼントされていたら小躍りし、翌年の春くらいまでは楽しく遊んでいたことと思う。でも、ワクワクは長くは続かない一過性のもの。
空手は年を重ねるごとに「自信」だったり、「集中力」だったり形を変え自分に色々なものをプレゼントしてくれる本当に不思議な素敵な贈りもの。
今、私は60歳を目前にして師範として空手に関わっている。最悪と思った10歳の時のクリスマスプレゼントが今では私の人生の軸になっているなんて実に不思議なものである。
こんな素敵なクリスマスプレゼントを1人でも多くの子供たちが受け取ってくれればこんな嬉しいことはないと思い門戸を開けて私はいつも待っている。
ご父兄の皆さん、流行りのおもちゃもいいが、今年だけはお子さんの一生の宝となる「贈り物」をクリスマスプレゼントに渡してみては如何かな。